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2018年12月の俳句
田畑益弘 俳句新作


新着情報 画像12月

空箱の中に空箱十二月

御破算で願ひましては街師走

母遺す編みし毛糸の未来形

底冷の底を奔りて蒼き川

底冷の紫がかり比叡昏るゝ

みちのくの伏目のこけし冬深き

冬の蝶大きあを空残しけり

冬凪いで猫日和とぞなりにける

密やかにこひびとと逢ふ年忘れ

山眠るふつと活断層のこと

山眠りゐて石英は水晶に

三十六峰しめし合はせて眠るかな

熊出でし山にも市制布かれあり

休校の砂場に遊ぶ風邪の神

死亡欄読む間をしぐれては晴れて

音消して救急車去る寒夕焼

枯野行きて測量士に遇ひしのみ

落日を一鳥よぎる枯野かな

蟷螂も枯れてもう枯るゝものあらず

人よりも地図を信じて枯野なる

これやこの枝垂桜の枯木かな

手を浸けて海ぬくかりし水仙花

水仙や怒濤いくつも見てゐたる

枇杷色に屋台はともり雪催

夜雨そと初雪となる別れかな

白毛布蛹のやうに子は眠る

ジョン・レノン思ひ出させてしぐれけり

十二月八日未明の放屁かな

狛犬の阿吽の分かつ霜の花

火事跡を離れぬ犬のをりしこと

オロシヤの舶を怖れず冬かもめ

冬籠るつむりの中の詰将棋

ユダのごと髭たくはへて冬籠

枯園の一人と一人かゝはらず

冬耕の一人にとほき一人かな

一點へ収斂しゆく枯野人

昔男ありけり老いて着ぶくれて

人参を微塵にすれば食ぶるひと

寒林やこゑ美しく禽の棲む

酒ばかり届くを恥づる歳暮かな

人生の誤算のごとし隙間風

雪つぶて雪へ抛りて一人なる

寒灯をいくつも点し一人なる

うつくしき蝶類図鑑冬ごもり

冬深し標本室の千の蝶

ゆきずりの嬰泣きやみぬ聖樹の灯

三寒の四温の兆す雨気かな

炬燵居の脳の大部を使はざる

炬燵猫ときどき覚めて美食せる

短日を曲り損ねし事故ならん

清水へ七味を買ひに冬うらら

「おほきに」といふ妓の言葉冬ぬくし

酌下手の汝を愛しむおでん酒

初雪は水子のために降りにけり

自動車も静かなオブジェ深雪晴

一つ翔つと皆翔つあはれ都鳥

狐より賢からざり狐罠

いづくへと行く靴音や夜半の冬

長考に沈みゆくなる襖かな

大原はけふも雪積む牡丹鍋

猪鍋の煮え立つ比叡颪かな

日記買ひ川の行く方見てゐたり

三寒の四温の兆す雨気かな

点鬼簿にわが知らぬ名や冬の星

若き日の悔いが犇く冬銀河

佳き墨を買ひて天皇誕生日

昼月のかくも清らに年の暮

年の瀬をやをら過りぬ霊柩車

満目の枯れを見てきし深睡り

千年の古都の川音浮寝鳥

京指して風花の飛ぶ荼毘の空

冬麗の電気をとほすプラスチック

蝶凍てゝをり死ぬにも力が要る

裸木が云ふ伐ってみよと裸木が云ふ

虎落笛人の世に鬼が哭いてゐる

団欒を覗いてゆきぬ雪女郎

凍滝の音無き音や耳の奥

橇の鈴が響く白地図の国に

雪をんな曲つても曲つても迷路なる

砂時計の砂漠に沈む冬茜

息白く言魂白く逢ひにけり

掌の中の手のつめたさも憎からず

狐火に眠り落ちたる丹波かな

悪さうな漢ばかりや缶焚火

けふ一つ年をとりたる砂時計

北風の中逢ひにゆく逢ひにくる

雪の京古きキネマを見るごとく

へその緒を出してしまひて年の暮

わがために紅き花買ふ寒暮かな

顔見世も千穐楽やゆりかもめ

一服の紫煙のゆくへ除夜の星

倖せか余白の多き日記果つ

大時計の内部の暗き掃納め

大年の大きなしゞま流れ星

年の夜の観念したる無言(しゞま)かな

にんげんを篩にかけて年歩む

年歩む恐ろしきほどのしづけさで


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